自治体職員を苦しめる決算統計。総務省は難しい調査を簡素化すべき

みなさんは、総務省の地方財政状況調査(通称「決算統計」)をご存じでしょうか。

おそらく、地方自治体職員で財政や予算関係の仕事をしていないと、知らない人がほとんどだと思います。

 

この決算統計、国勢調査などの一般国民向け統計調査と比べると、あまりに調査表が複雑で、多くの自治体職員が苦しめられています。

ごく一部の公務員だけしか知らない、決算統計の闇について暴露します。

 

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決算統計とは?何の目的で使われるの?そんなに作るのが大変なの?

 

決算統計とは、年度ごとの各自治体の財政状況を調査するための統計調査です。

各地方自治体から提出された決算統計の報告をもとに、自治体ごとの財政状況を整理した「決算カード」や「地方財政白書」などの公表資料として取りまとめられます。

自治体ごとの各年度の決算状況を見ることができるので、財政状況の分析のため、国はもちろん、経済学者など、いろいろな人が調査結果を活用しています。

あまりに調査項目が多すぎる決算統計調査

まず、決算統計がどのような調査表なのか、見てもらったほうが分かるでしょう。

 

うわぁ・・・3種類とはいえ、すごく面倒くさそうな調査表だね。
3種類?これは調査表のほんの一部を抜粋して見せただけだよ。

 

なんとこの決算統計、約100種類あります。

上で表示しているような調査表が、ほかに90ページ以上あるということです。

自治体の状況によってはすべての調査項目に答える必要はないですが、それでもかなり膨大な量の調査項目だということは分かりますよね。

 

決算統計は調査内容が複雑で難しすぎる

総務省がこの調査表の作り方を作成要領として以下のリンクのとおり公表しています。

決算統計調査作成要領

 

73ページもあるのか・・・しかも文字ばっかりで読む気がしないや。これを読まないと調査に回答できないの?
いや、作成要領を読んでも回答できないんだ。この要領は説明不足と言われているよ

 

73ページにわたって作成の手順が解説されていますが、そもそも100種類もの調査表を作るんだから、73ページの解説ではとうてい足りません。

なんと、決算統計を作るためのハンドブックが別に市販されています。

 

 

13,200円で買えます。おひとついかが?
高い!!ただの統計調査に答えるためのハンドブックなのに!?

 

 

この本、ただ高いだけじゃありません。

 

2,000ページ以上あるよ。ページ数を考えるとお買い得だね。
多すぎ!!ただの統計調査に答えるためのハンドブックなのに!?
すべてを読まないと回答できないわけではないかもしれませんが、どれだけ複雑な調査なのかはイメージできますよね。
国勢調査や家計調査など、国民向けの統計調査でも面倒に思いますが、自治体向けの統計調査となると、とんでもない規模の準備期間と労働力が必要です。

世の中の多くの地方公務員が決算統計の難しさに悲鳴をあげている

毎年、地方公務員の多くの方が決算統計が面倒だと悲鳴を上げています。

世の中の地方公務員の悲鳴やら恨み節が、毎年のように各種SNSで見られます。

ただの統計調査に回答するために、何か月もの時間を費やして、とんでもない時間の残業を強いられているんです。

 

決算統計が原因で自ら命を絶ってしまうという事案も発生している

非常にいたましい問題として、決算統計の業務を理由に、担当職員が自ら命を絶ってしまったという事件も・・・。

大分県職員自殺「原因は過重労働でうつ病に」 遺族が公務災害の認定申請
毎日新聞 2019年6月4日 21時41分(最終更新 6月4日 21時45分)

大分県福祉保健企画課主事の●●●●さん(当時26歳)が昨年6月に県庁内で自殺した問題で、●●さんの遺族が4日、自殺したのは過重労働でうつ病を発症したのが原因などとして、民間の労働災害に当たる「公務災害」の認定を地方公務員災害補償基金県支部(支部長=広瀬勝貞知事)に申請した。遺族はその後、県庁で記者会見を開いて「県の対応には不信感がある。県にはサービス残業をさせる体質があるのではないか」と問いかけた。

公務災害認定を申請したのは、●●さんの父■■さん(60)と母▲▲さん(59)。遺族側弁護士によると、富松さんは2018年6月9日午後11時ごろ、県庁舎内の同課で首をつって自殺した。当時は未経験の決算業務に追われていたが、十分な引き継ぎや他の職員からの支援を受けられず、過労死ラインを超える100時間以上の残業などでうつ病に罹患(りかん)して自殺したとしている。

▲▲さんには無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「もううんざりや」「こんなん拷問やん」「今日締め切りやったけどもう知ったことか できないものはできない」「もう死にたい なんでこんな俺ばっかり不幸な目に遭うんか」――など窮状を訴えるメッセージを送っていた。
●●さんは6月7日締め切りだった決算統計資料の作成が間に合わず、9日にも財務課から作成中の書類の不備を指摘され、10日未明に同課で首をつって死んでいるのを警備員に発見された。富松さんが使用していたパソコンの記録によると、5月10日~6月9日に114時間5分▽4月10日~5月9日に136時間30分▽3月10日~4月9日に88時間48分――の残業をしていたことが推定された。

自殺した当日夜に電話を受けた▲▲さんは「『お前がやらんと、他にする人がおらんと言われた』と話していた」と明かしたうえで「息子はもう戻ってこない。可哀そうで、くやしく、悲しく、寂しい」と涙を流した。

 

統計調査に回答するために、毎月100時間以上の残業を強いられ、それでも終わりが見えない。

しかもこの亡くなられた方は福祉の担当者さんなので、ほかにも農業、土木、観光など、部門ごとに担当者がいるはずです。

そして全体を統括する財政部門の人もいるはずです。

全員が全員、平均100時間もの残業をして調査に回答しているかは存じませんが、想像を絶するほど複雑で膨大な業務なのです。

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決算統計の何がそれほど難しいのか

これほどに地方公務員を悩ませる決算統計、いったい何がそんなに難しいのでしょうか。

 

調査表同士がリンクしているから数字がズレると全部が崩壊する

決算統計は、調査表が100種類もあるだけで相当面倒なのに、調査表同士が複雑に結びついています。

 

一般企業の決算でも、貸借対照表が借方と貸方が一致していないといけませんよね。

同様に、決算統計の調査表でも、歳入と歳出は一致してなければいけません。

その歳入と歳出のうち、臨時的なものと経常的なものの内訳もつじつまが合っていないといけません。

また、歳出のうち人件費は、別の複数の調査表ともつじつまが合っていないといけません。

その人件費に関する調査表は、また別の調査表と数字が結びついています。

一か所でも数字が誤っていれば、関連する調査表のすべてを修正する必要があります。

すべての作業が終わったと思って見返したら、1か所だけ数字に矛盾が生じていたとします。

その場合、1か所の数字を修正するために、また複数の調査表を作り直すことになります。

 

 

・・・という、それこそ2000ページ以上の解説書が必要なほどに複雑な調査表の作りになっています。

しかも、様式はただのエクセルで、自動である程度数字を結び付けてくれる数式が入っているわけでもないようです。

複雑に絡み合ってほどけなくなったコードを、ひとつひとつほどいてあげるような、途方もない作業です。

 

統計のために千円単位に修正が必要

私たちがお金を支払うとき、円単位でお金を支払うのと同じように、地方公共団体も円単位でお金を管理しています。

ですから、自治体の決算も当然、円単位で作成しています。

しかし、この決算統計。総務省は自治体に、千円単位での提出を求めています。

 

もともと円単位であれば歳入と歳出がぴったり一致するように決算書を作っていたとしても、統計調査のためだけに、わざわざ千円単位で作り直すんです。

でも、単純に千円未満四捨五入で計算していくと、歳入=歳出だったのが崩れてしまいます。。

たとえば歳出が2,999,800円、歳入のうち税金が1,333,400円、国からの補助が1,666,400円だった場合。

歳出は千円単位にすれば3,000千円ですが、歳入のうち税金が1,333千円、国からの補助が1,666千円。合計2,999千円で、数字が合いませんね。

 

歳入=歳出が一致するように数字を調整してから提出しないといけません。

この作業を、自治体の抱える事業ごとに行っていきます。

いくら小規模の自治体でも、100種類の公的事業を持っているはずですし、大規模自治体となれば・・・。

 

繰り返しになりますが、各自治体は、円単位で決算書を作っています。

統計調査のためだけに、無理やり決算の数字を千円単位に調整しているんです。

 

でも、円単位を千円単位に直す”だけ”でしょ?
調査表同士が複雑に結びついていることを忘れたの?
単位を直す「だけ」と感じるかもしれませんが、この単位調整で一つでも不都合が出れば、いろいろな調査表に波及していきます。
何度も何度も、端数を調整して、統計上のエラーが出たら原因を探して、また端数を調整して・・・。
この作業に無意味さを感じている自治体職員は多いと耳にします。

総務省は決算統計の見直しをしたほうがいい。

霞が関の人間は、正直いって浮世離れしている人が多い印象です。

家庭を顧みず、朝でも夜でも働いて、どんな理不尽にも耐えられる。そんなハイパー人材が生き残れる世界です。

もちろん、霞が関の官僚の方々が全員、そんな超人ばかりではないかもしれませんが、少なくとも地方よりも鍛え抜かれた人が多い。

だから、あまりに膨大で複雑な業務でも見直すことはしないのでしょう。

自分たちの尺度であれば、特に問題なくこなせる規模の仕事だから。

 

今回ご紹介した決算統計は、本当はもっともっと複雑だし、多くの問題を抱えています。

決算統計以外にも、国が地方自治体に求める複雑な事務処理は数多く存在します。

 

日本の公務員の病休取得者は非常に多いと言われています。特にメンタル系は非常に問題です。

この国を動かし、全国の公務員を先導する、霞が関の官僚が業務を改善しなければ、日本の労働環境は変わらないでしょうね。